幸福は香水の如く
- 遊笑 鉄線
- 2019年12月30日
- 読了時間: 4分
夢の中で幼い自分が泣きながら「僕だってこんな身体に生まれたくなかった」とずっと封印してきた事を言って泣いているところで勢いよく起きて、自傷をしようとする島崎さんを止める統一郎。この言葉は物心がついた時から延々と母親に言われ続けた「お前は生きているだけで迷惑なんだから」という言葉のアンサーなんだけども、実際に言われた当時の幼島崎さんは泣きもせず無理やり笑って誤魔化していた。でも本当は悲しくて仕方なかった。というのを、島崎さんは惨めになるから自覚したく無い。なのに夢の中の自分はソレを言ってしまうから、錯乱して忘れたくて自傷しようとする。統一郎は落ち着くまで抱きしめてくれて、島崎さんはそのうちに安心したのかスンと寝落ちする。
統一郎はこの地獄から救い出した本人なので当然島崎さんの過去も、トラウマの夢を見ることも知っている。でも自傷をしてしまうとその傷からまた思い出してしまうのでは無いかと思っているので止める。統一郎は子供のように泣く島崎さんを見ると、何時も何とも言えない、強いて言うなら歯痒い感情を抱く。
家庭内でぞんざいに扱われていた事から父や母の像を求めているのかと思ってベタベタ甘えてくる幼い島崎さんを放置していたら、実は恋愛感情を持っていたと、ある程度島崎さんが大きくなってから統一郎は初めて知る。島崎さんには"最初から言ってた"と笑うけど、幼い子の「好き」を真に受ける奴はいない。
島崎さんにとっての統一郎への愛は恋愛感情も勿論だけど、父性愛を望んでいるのも事実。だから「愛してる」なんて言ってくれなくても、それとなく大事だよアピールするだけでめちゃくちゃ喜ぶ。そういう意味では島崎さんの精神面の安定は統一郎が担っていると言っても過言では無いのかもしれない。
それだけ依存している統一郎のいなくなった世界での島崎さんは当然生きていけないので、生きながら死んだような生活を送っている。統一郎を失った痛みと、5超という居場所が無くなった悲しみと、敗北の屈辱と、トラウマに心が擦り潰されて壊れそうになって、もはや廃人一歩手前。そんな時に洗脳にかかってしまい、統一郎と暮らす幻想に囚われる。
元テロリストでテレビに出た事で顔も広く知れてる島崎さんを捕まえて飼ってることを仲間内で自慢して盛り上がってるおじさんたちの横で『統一郎さん、今日も楽しそうで良かった』と嬉しくなる島崎さん。
初めて洗脳かけた時に"統一郎さん"と呼ぶものだから「もしかしてあのテレビで何か言ってたアレと出来てるのか?」と思って試しに抱いたら本当にデキてて、"元テロリストの上にあんな事を堂々と言っておいて裏ではこんなことしてたのか"というのがあまりにも面白くて、それからずっと抱いてる。
島崎さんは統一郎に抱かれるのが好きなので拒んだりしないし、大抵のお願いなら聞いてくれる。頭を撫でるとくすぐったそうに笑うし、身体を撫でると素直に感じるし、キスをすれば求めてくる。前に気まぐれで「愛してる」と言ったら、急に泣かれて、洗脳が解けたのかと凄くビックリした。
けどよく聞けば「初めて言ってくれたのが嬉しくて…」とのことだったので、それからは上手く言うことを聞かせる時の"餌"として使っている。のを仲間内で話してて、へぇ、と島崎さんの上から下まで値踏みするように見ていても、島崎さんは"今日の夕飯は何にしよう"としか考えていない。
『Innocence』でも書いたけど、洗脳の能力自体は決して強いものでは無い。ほんの少し相手を惑わすことができるので普通の人を騙すのにはちょうど良いけど、超能力者相手だと見破られるのが多いくらいだと思ってる。
でも島崎さんは統一郎がいない世界に耐えられなくて、例え偽物だろうと幸せなら良いってセルフ洗脳かけてるから解けることはないし、仮に解けたとしても妄想の中で生きる。初めて"自分だけを愛してくれた統一郎さん"に見放されるのが怖くて怖くて仕方ないから。また「好きだ」って言ってほしいから。
島崎さんは統一郎を置いていってしまったことを謝った上で「今度はずっと側にいるから、もう1人にしないで」と確かめるように何度も統一郎(偽)に言うんだけど、島崎さんはその言葉に人生で一番の重みを込めて言っているにも関わらずそれが本人に届いていないし、また何時もの妄想だと思って統一郎(偽)に適当に返事をされてるのに、それを本人の言葉だと信じて安心していて、読んでくれてると思って何通も出している手紙が実は届く前に全て破りすれられてるかのような闇の深さを感じる。島崎さんがずっと心の底から相手に伝えたい言葉は、統一郎に届くことはない。
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