Innocence
- 遊笑 鉄線
- 2019年8月15日
- 読了時間: 5分
更新日:2022年9月8日
前に書いた統島前提のモブ島の話(『夜露に足を濡らす』参照)なんだけど、こういう切ない感じの統島とか結構欲しいとよく思ってる。
統一郎が優しく抱いてくれるのは嬉しいけど朝になる頃には仄かな温もりを残して消えてしまうのをいつも心苦しく思っていて、寂しくて寂しくて仕方なかったんだけど、最近はずっと側にいてくれるから愛想良く尽くしてくれる島崎さん。
本当は統一郎ではない別人だけど、洗脳でそう思い込んでしまっているから島崎さんは何でもいうことを聞いてくれる。羞恥プレイも頼めばしてくれるし、膝枕もしてくれる。
野外でしたいと言われた時は凄く渋ったけど、結局はしてくれた。誰かに見られているのではないかとか、盗撮されていたらどうしようとか気が気ではなかったけど、エンタメ気質なところもあって内心興奮はしていた。
統一郎は息子や妻に一応気を遣っていたのか関係を公にすることは絶対になかったし、秘密についてかなり厳重に管理していて、今までの彼から言えば野外プレイなんて以ての外だったから、初めて持ちかけられた時は島崎さんはとても驚いたし、何度も「正気ですか?」と訊ねた。
それでも統一郎は聞かれるたびに「そうだ」と言うし、実際に外ですることになった訳で、島崎さんは嫌がったものの、終わった後は"これからは隠さなくても良い"ということに素直に舞い上がってしまう。
情交を結ぶ度に、内容は過激さを増していく。島崎さんはそれを愛と信じ、出されたものは例え毒と知りながらも飲み込んだ。否、実際は毒と薬の境さえ分からなくなるほど、認識が麻痺していたのかもしれない。
しかしそれとは引き換えに統一郎はとても優しく、何時いかなる時も寄り添ってくれた。朝日が昇り、部屋の温度が少し上がって目が覚めた時、隣で愛しい人の寝息が聞こえた島崎さんがどれほど嬉しかったか想像に難くない。
やっと自分だけのモノになってくれたこと、島崎さんはそれが何よりも嬉しかった。何度も「統一郎さん」と名を呼び、頬に口づけをする。こんなに心から甘えるのは何年振りだろうか、と気恥ずかしくなるのを感じながら、頭を撫でられれば犬のように手に擦り寄った。
ある夜、島崎さんは夢の中にいた。所謂"明晰夢"というものだ。その夢の出来事は何となく知っているのに、次に起こることが思い出せずに島崎さんは首を傾げる。
夢であるとは分かっているのに、自分の思い通りになるわけでもない。ただ瓦礫の街を、彼は歩いていた。自分は、この街を知っている。でも思い出せない。苛立ちが募る。
ふと、口の中に食べ物の味が広がった。ケチャップライスと卵の味。オムライスだ。あの人が好きだったな、と何となく想起するが、ふと島崎さんは"それを何時知ったのか"がとても気になった。
次の瞬間、勢いよく飛び起きる。心臓が痛いほど鳴り、額には汗をかいていた。何故だか分からないがとても嫌な気持ちになって、隣で寝ている統一郎の背中にキツく抱きついた。
それに気が付いた統一郎は、寝ぼけながらもゆっくりと向き直り、島崎さんを抱きしめてくれる。島崎さんは統一郎の温もりを感じて少しは楽にはなったが、どうして自分がこんなにも不安になるのか疑問に思った。
首筋に顔を寄せると、自分と同じ匂いがする。生活を共にしてもう随分な時が経ったのかと、島崎さんは考えた。そもそも昔の彼はどうだっただろうか。
出会った頃から今までの、過ごしてきた日々を思い出す。ひとときの夢と知りながらも爪先まで溺れ、夜の終わりに怯えていた頃。誰かのモノであることを酷く呪った事もあった。
ただ一方で、統一郎が家庭を捨てることを考えたことはなかったし、想像できたことはなかった。何時だって朧げで無形の願望だけが心の中を埋めていた。自分だけを見ていてほしいと願う傍で、自分だけになる統一郎は気持ち悪いと考えていたと思う。
1つの疑念が生じる。彼が自分の側にいるということは、家族にも会っていないという事になる筈だ。ぐずぐずに愛されて現実直視を疎かにしていたために正確な時間が分からないが、それでもかなり長い間側にいた。
サッと血の気が引くのを、島崎さんは確かに感じた。もしかしたら別の人なのでは?と最悪な考えが頭を過る。振り払うように思考を回転させるが、考えれば考えるほど"元の統一郎"とは違う気がしてしまう。
口の中でまた、オムライスの味がした。確か彼は、《ある場所》のこの料理を気に入っていたような。吹き渡る風、消炎の匂い、ヘリの音、遠くから聞こえる悲鳴、耳を劈く雑音と轟音。彼の声。彼は今何処に?
息が早くなり、手が震える。嫌だ嫌だと首を振り、頭を抱えた。驚いて起きた統一郎が、島崎さんを抱きしめる。蕩けてしまいそうな甘い声で「亮」と呼び、涙で濡れる唇に熱いキスをした。グチュグチュと口の中で響く舌が絡み合う音に、頭がぼーっとしていく。楽しければ良い、幸せだったら何もいらない。こんなにも愛しい人が、何もかも捨てて隣にいてくれるのだから。それ以上何を望むというのか?
島崎さんは荒くなる息の中で、統一郎に愛の言葉をねだった。統一郎は耳元に熱い吐息をかけながら「愛している」と言ってくれた。島崎さんは"何度頼んでも一度だってそんな事言ってくれた事ないのに"と思ったが、頭の中でグシャグシャに丸めた後ゴミ箱に突っ込んで、何も考えない事にした。
確かに最初に洗脳をかけたのは相手だったが、言うほど強力な能力ではない。しかし、統一郎が居ない現実を受け入れたくない島崎さんがセルフ洗脳をかけているおかげで今日もラブラブ新婚生活をしているという妄想の中で生きている地獄のような統島の話。
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