落日する太陽
- 遊笑 鉄線
- 2022年8月3日
- 読了時間: 6分
更新日:2022年9月27日
怪異となって帰ってきた真一郎くんと、薄々"偽物"だと気付いても『嘘でも良い』と突っ走った果てに幸色の地獄へ堕ちる武臣さんの話。
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夕焼けが長い影を作る街中で、突然真一郎くんによく似た人物を見かけた。真一郎くんは死んだ日と変わらない姿、格好をして歩いていた。武臣さんは罠か何かかと考えたが、それよりも先に思わず腕を掴んでしまう。武臣さんは路地裏に引き込んでお前は何者だ、何が目的だ、と荒々しく詰問するが、真一郎くんは「お前、もしかして武臣か?!!」と抱きついて「良かった~~家誰もいないし、バイク屋は荒れ放題だし、どうして良いかわからなかったんだよ」と変わらぬ口調で話すので、武臣さんは泣きそうになる。
でもグッと我慢してお前はニセモンだなんだと突き放すけど、真一郎くんは「そんなことより、いつものくれよ」と笑いながら手を差し出す。それは嘗て真一郎くんがタバコを持っていない時に武臣さんにタバコを強請る行動だった。それを見てなんとも言えない気持ちになった武臣さんは彼を放っておくこともできず、とりあえず一旦観察しようとホテルに押し込めた。
身体検査したが携帯は持ってないし、それどころか財布も持ってない。今までどうしてたのかと聞けば「部屋で寝てた」と言う。起きて部屋を出ると誰もいなかった、みんなはどこにいるんだ?と真一郎くんは訊ねたが武臣さんは答えなかった。真一郎くんの頭を触ると、ザラッとした傷口みたいな感触がある。真一郎くんはとっさに痛!と身を屈める。えっ?と自分の頭を触り、大怪我とかしたっけ…?と不安げに呟く。
武臣さんは「もしかしたら、本当は生きていたのかも」と思い始めるが、都合の良い妄想だとすぐに頭から振り払った。暫くここに住め、金はいいからと武臣さんは言って部屋を出ようとしたら真一郎くんが「武臣さ、なんか雰囲気変わったなーと思ったけど、そういう優しくて世話焼きなとこ、昔から全然変わんねぇな」と笑ってくれた。武臣さんは無言で部屋を出て本部に帰ろうとしたが、路地裏で我慢し切れず泣いてしまった。報告しようか迷ったが、その後どうなるのか考え、報告はしなかった。
武臣さんは九井くんに「真がもし生きてると言ったらどうする?」とポツリと聞いたが、兄弟揃って薬は勘弁してくれと呆れた口調で一瞥もせず突っぱねられた。武臣さんはまあ普通そうだよな、と思って色々調べたが、当然真一郎くんは死んだことになっていた。
こうなったらとマイちゃんに何気なく同じことを訊ねたところ、マイちゃんは暫く無言になったのち、子供の頃に兄から聞かされた怪談話を話してくれた。
曰く『ある日突然死人を模した幻を見かけたら、追いかけてはいけない。【ソレ】は人が強く認識をするほど、現実を帯びて侵食をしてくる。認識した人の記憶を餌にしているから、本物と遜色無いので見分けも付かない。やがて受肉し、【ソレ】に記憶を塗り替えられてしまう。そして、本物との記憶は消える。』という話。
武臣さんはもし認識したらどうすればいい?と聞いたら、マイちゃんは「ただ殺せばいい」と答えた。武臣さんは「そうだな…」と呟きタバコに火をつけて、それから帰るまで一言も喋らなかった。頭の中では真一郎くんとの事ばかりが浮かんでは、泡のように消えるを繰り返していた。
ホテルに帰ると相変わらず真一郎くんは真一郎くんで、おかえりとベッドサイドに座って笑っていた。もしコレが俺の記憶を奪って出来た怪物なら、知らないことはできないってことだろ?と思って、真一郎くんを押し倒す。真一郎くんは酷く動揺していたが、仮説が正しければ、抱いたことなど相手との先は当然ないと思っていた。が、真一郎くんはある程度抵抗し、やがて溜息をつくと大の字になった。
え?という顔をする武臣さんに真一郎くんはしないの?と返した。いや、普通嫌だろ…と言ったら、真一郎くんは「嫌だけど、お前だから良いよ」と赤らめた顔を背けながら小さな声で呟いた。武臣さんは「良かった!!怪異なんかじゃなかった!!!!」と泣いて喜んだ。
「まだヤってもないのに早くね?」と真一郎くんは若干引いていたが、涙を拭ってくれた。おいで、と真一郎くんに手を引かれ、そのまま長年想い続けた肉体的交わりを初めてした。隣で眠る真一郎くんの髪や頬を撫でながら、武臣さんは「例え偽物でも、真が居てくれればそれでいい」とまた涙をこぼしてた。
幸せだった日々を取り返すような毎日が続いたある日、マイちゃんに急に呼び出される。何かと訝しんでいたが、何故か思い出話をし始めた。そこで武臣さんは、ところどころ真一郎くんについて思い出せないことがあると知る。マイちゃんは黙っていた。そんなはずない!アイツは…と言って、彼も黙った。
「お前が決めろ」と拳銃を差し出される。武臣さんは異常なくらい汗をかいていた。トボトボと帰路を歩きながら、今までの真一郎くんとの人生を振り返る。このままでいいのか?と悩んだが、彼は一つの賭けに出た。
ホテルに帰るといつも通り笑って真一郎くんはおかえりと笑っている。その隣に腰掛け、武臣さんは「お前は怪異なのか?」と聞いた。真一郎くんは暫くうーん…と考えたが、「そうだよ」と目を真っ直ぐ見つめながら答えた。武臣さんは心臓が締め付けられたように痛くなり、苦しそうな顔をしてる。真一郎くんは、これから先このままでいれば武臣さんどころか他の関係者からも記憶が消える、と言う。武臣さんはお前が不利になるのを分かってて、なんでそんなこと言うんだ?と尋ねれば、さあ、お前の中の俺がそういう奴だったのかも、と言った。武臣さんはあのジャングルジムのことを思い出す。彼がみんなの中から消えてしまうのは嫌だと思ったら、無意識のうちに貰った拳銃を手にしていた。その腕を真一郎くんはグイッと引っ張り自分に向けさせる。綺麗な思い出も、みんなの想いも、何もかも奪っていいのか?と聞かれたが、それでも撃てない。
真一郎くん"だったモノ"が目の前でだんだん頭から血を流し、形が崩れてゆく。あまりの恐怖心と極限の状態から、嫌だ嫌だと思っていたのに咄嗟に発砲してしまった。
ベッドに倒れ込み、うつ伏せになった真一郎くんを、武臣さんは目を逸らすことも出来ずただ呆然と見つめてしている。指先が少しだけ動いた真一郎くんはゆっくりと武臣さんの方へ手を伸ばそうとしたが、途中で腕を引っ込めた。怖がらせてしまうのではないかと気を遣っているようだった。それから掠れた声で「武臣、辛い役させてごめんな、でもありがとう、大好きだよ」と言うと、跡形もなくベッドに溶けてしまった。
武臣さんは暫く硬直していたが、やがて肩が揺れ渇いた笑いが口から漏れて、何故かはわからないけど一頻り笑った。だがそれも終わるとすっと無表情になり、いつも吸っているタバコをゆっくり一服し終わると、顎下に銃口を当てながら「真、俺も愛してるよ」と言って自身を撃ち抜いた。
1時間ほど経った頃、マイちゃんと春千夜が部屋に入ってくる。マイちゃんは春千代に「お前の兄貴を、奪ってごめん」と呟いたが、春千代は「大丈夫です、俺も辛かったから」と答えた。武臣さんは精神的が限界に来ていて、とうとう幻覚が見え始めた。だからマイちゃんは春千代に相談をして、嘘をついた。そのうち妄想が肥大化していくのを知っていたが、ずっと放っておいた。
運び出すために武臣さんの顔を覗いたマイちゃんが黙って見ていたので、後ろから春千代が同じように覗く。彼があまりにも幸せそうな顔をしていたので、春千代は呆れとも取れる安堵の溜息を一つこぼし、目尻を指で拭った。
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