縋り付く薔薇
- 遊笑 鉄線
- 2015年2月8日
- 読了時間: 5分
更新日:2022年8月10日
リンゴォさんと子モアちゃんのお話は“可愛いのに何処か切ない”というのが大好きです。所謂『ハートフルボッコ』というやつですね。途中まで順調だったのに、何故か鬱エンディングを迎えるというオチ付き。
モアちゃんは育った環境がSIRENをもっと酷くした宗教崇拝ガッチガチの村だったので、思考や価値観は全て戒律に基づいています。そんな子どもらしいことが何一つ出来ず、幼いながら背負った業を贖うように生きているモアちゃんを何時もリンゴォさんは正常に戻そうとしていました。
モアちゃんは初めこそ育った環境に囚われていただけなのですが、そのうち「こんな素敵な人と出逢わせてくれたのだから、神様はいるに違いない」と思い始めてしまい、中々信仰をやめてくれません。毎日毎日神様にリンゴォさんの無事と感謝を捧げています。
リンゴォさんは別に無神論者とかではなく、あくまでもモアちゃんの村の宗教に対して諭しているだけだったのです。が、それがモアちゃんの心の支えになるのならと危険なことをしなければ止めなくなりました。リンゴォさんは何時だってモアちゃんの幸せを優先的に考えています。
因みにこの話はどんなエンディングを迎えるのかと言いますと、モアちゃんが紆余曲折を経てやっと信仰をやめるとかですかね。やめるといっても、モアちゃんにとって心の支えである《宗教を重んじること》を強制的にしなくなってしまうことですから、まあ明るいわけもありません。
モアちゃんがある程度大きくなった頃、リンゴォさんが婚約者を連れてきます。そして半年ぐらいで結婚し、家を出て行ってしまいました。見たことのない幸せそうな顔をして新妻と寄り添うリンゴォさんを見たときにモアちゃんは初めて「この世に神などいない」という事実を知るのです。
長い人生の中から“かけがえのないもの”を奪われてしまったモアちゃん。それを奪ったのは、『運命』と『その運命を選んだリンゴォさん』でした。つまりモアちゃんはあんなに愛し、崇拝した二つのものから裏切られたのです。だからモアちゃんの中では“神様はいない”という結論に。
モアちゃんが崇拝していたのは宗教的な神様でもあり、また、モアちゃん自身を救い上げてくれたリンゴォさんでもあったのです。その手当たり次第捧げてきた献身的な気持ちは、残念ながら返ってくることもなく消えてしまいました。でも事実、誰も悪くないのです。だからこそ誰にも当たることが出来ない。
宗教もリンゴォさんもなくしたモアちゃんはどうなってしまうんでしょうね。精神の拠り所がなくなってしまったわけですから、壊れてしまうんでしょうか。何かに縋らないと明日を生きることすら絶望的に感じるという己の無力さに身体を震わせて咽び泣くモアちゃん可愛いです。
何が怖いのかも分からず「怖い、怖い、助けて」と部屋の隅で奥歯を鳴らし、頭を抱えていたけれど、多分「出て行った後、心配だからたまに見に行ってやってくれ」とリンゴォさんに頼まれた知り合いの博士が発見した頃には既にモアちゃんはお人形さんになっているのではないかと思います。
マインドブレイク状態だけれど心ここに在らずというよりずーっとニコニコしているみたいな感じの方が私は好きです。綺麗な顔で微笑んでいるけれど、瞳の中は何も映さないし、なんかサイコ的な意味でやばいことになってるし、放っておけなかったから保護したものの、博士も精神的にキツイ生活が始まります。
鳩をとっ捕まえて紐でぐるぐる巻きにして川に落としては「ほら、この世界に神様なんていないでしょう?だってあの鳩は、誰にも助けられることなく死んでいくんですからァ。」と残酷なことをしてはぬいぐるみに話しかけて笑ってるモアちゃん。
博士はそもそも子供があまり好きではないし、善悪の境が非常に曖昧な人なので別に生き物を殺そうが興味はないのです。ただ、以前のような凜とした雰囲気を持った聡明なモアちゃんとはまるで見る影もなくなったことには少し心を痛めています。子供は好きじゃないけれど、結局はモアちゃんのことが好きな博士。
いくら血で汚れようとも博士は服職人(私が博士と呼んでいるだけでこの世界のフェル博士は博士ではない)なので、新しい服は沢山あるし、あまり困りません。でもやり過ぎると毎日服を消費されることにいい加減博士も頭にくるのか部屋に繋がれることもあります。そういう日は一人で無心のまま大人しく過ごす。
でもこんなモアちゃんにも昔の面影は少し残っています。博士が夜(風邪を引かれると困るので)布団をかけ直しにモアちゃんの寝室へ行くと、必ず手を出しっぱなしにしているのです。仕方なく手を入れようとするとモアちゃんが寝ぼけつつ少しだけ笑ってくれるとかなんとか。
寒い日に手を出してるのはリンゴォさんが手を温めて戻してくれるのが好きだったから。それがいつの間にか癖になっていたんですね。博士はそんなこと知らないので始めはしてくれなかったけれど、戻す時の微妙に悲しそうな顔を見ていたらそのうちリンゴォさんと同じように温めて戻してくれるようになる。
モアちゃんの唯一の心の休み場は夢の中だけなのかもしれませんね。夢の中だけは何にも邪魔されず、あの幸せだった頃のようにリンゴォさんに逢えますから。だからモアちゃんは起きたての、夢と現がまだぼんやりしてる間だけは優しくて甘えたがりのモアちゃんに戻っています。
壊れてはいるけれど、楽園どころか神の存在自体信じることをやめた上に、そもそも“救い=存在しないもの”であり、故に『救いの象徴である死後の世界などあるはずがない』という思考になったモアちゃんは恐らく自殺はしないのではないでしょうか。
ただ、逆に考えれば無の世界に身を投じることにもなるわけです。死を受け入れることによって、辛い過去も暗い未来も柵も鎖も罪も罰も全てゼロへと還元される。そこに気付いて身を委ねてしまおうと考えた時、モアちゃんは神が統べるこの世界からの卒業を選ぶのでしょうね。
モアちゃんがこんなになってしまったなんてリンゴォさんが知ったら悲しみますね、確実に。でも前にも言ったようにリンゴォさんも、誰も、悪くはないのです。だからこそハッピーエンドにはなれません。何故なら誰も何も悪くないということは、解決の糸口がないということにも繋がりますからね。
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