凍えるような夜
- 遊笑 鉄線
- 2019年8月7日
- 読了時間: 4分
『本命と遊びの差は、地球最後の日に会いに来てくれるかどうか』という絵を見かけたのですが、統島もそうなのかもしれないと思った。
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島崎さんはプライドが超高いから、統一郎に何か言われる前に自分から「終末まで家族と大切な時間を過ごしてください」って別れを告げるんだろうな。でも一人になった部屋でずっとずっと統一郎のことを待ってる。
頭では家族と過ごしているのは分かっているはずなのに、島崎さんはどうしても希望を捨てることができない。何となくうたた寝していたら「亮」と呼ばれて飛び起きるけど当然誰もいなくて、ただの夢だと知って虚無で心がいっぱいになる。
刻一刻と迫る終焉の時に焦燥感や絶望感で精神が削られて、終いには家の中を荒らし回ってしまう。世界のどこもかしこも正常に機能してないし、近所でもそこら辺の物を壊してる人間が沢山いるし、そういうストレスも積み重なって余計に心が荒む。
ついに明日世界が終わるという時に、島崎さんはボロボロのソファに横たえて茫としていると、部屋の扉をノックする音が聞こえる。一瞬ビクッと跳ねて、警鐘のように鳴る心臓を押さえながら期待を込めてドアをそっと開けた。
そこに立っていたのは統一郎ではなく桜威さんで、心配だから見に来てくれたらしい。桜威さんはかなり早くから死ぬことに決心をつけているのでみんなのところを回っていて、最後は好きな人と過ごしたいから島崎さんのところに来てくれたとのこと。
でも島崎さんはあまりのショックに膝から崩れ落ちて、桜威さんは驚くけどすぐに抱き上げてソファまで運んでくれる。部屋の中がめちゃくちゃになっている光景を見回し、眉を顰めながら「もっと早くに来れば良かった」と言って謝ってくれた。
島崎さんは暫く黙っていたけど、そのうち肩を震わせて俯いてしまう。桜威さんは黙って相手の動向を伺っていたけれど、そのうちに島崎さんがポツリポツリと心の内を語ってくれた。
統一郎が凄く好きだから別れの言葉を聞きたくなくて自分から言ってしまったこと、本当は後悔をしていること、今まで待っていたけどずっと寂しかったこと、もう一度好きだと伝えたかったこと。
話しているうちに島崎さんは激昂したり、泣き出したり、彼の心の均衡が崩れてしまっているのがひしひしと伝わってきて、桜威さんも胸を痛める。
握りすぎて白くなっている手を優しく解いてあげて、涙を拭いてあげて、うんうんと話を聞いてあげるうちに、やっと島崎さんは少しだけ落ち着いてきた。
ふと桜威さんが「手紙を預かっている」と島崎さんに伝える。聞けばここにくる数日前に統一郎から手紙を預かっていたらしく、島崎さんに渡してくれた。
島崎さんは何かを考えているようだったけど、少しすると手に持っている手紙をビリビリに引き裂いてしまう。目を見開き静止している桜威さんに、島崎さんは「会いに来ないのが全てですから」と零して、床に手紙を投げ捨てた。
その日の夜は二人で同じベッドに入る。島崎さんは感情を出し切りすぎたせいか疲れてすぐに眠ってしまって、夜中なのに目が覚めた桜威さんはそっとベッドを抜け出して破られた手紙を拾い上げて一生懸命修復した。
次の日、この世の終わりまであと1時間というところで、桜威さんは島崎さんに「やり残したことはないか?」と尋ねる。島崎さんは昨日とは違っていつも通りの態度で、肩をあげて「あったとしても今更どうしろと?」と言い、逆に桜威さんに同じ質問を返す。
桜威さんは少し黙った後に、昨日の手紙の件を切り出す。夜に全て繋ぎ合わせて、その時に中身を読んでしまった。その内容を島崎さんに伝えることが唯一のやり残したことだと。
島崎さんは困ったように笑うと「仕方がない、どうしてもというならどうぞ」と言ってソファに腰掛ける。桜威さんも横に座って島崎さんに向き直ると、ゆっくりと口を開き『地獄で待っている』と言った。
えっ?と桜威さんを見る島崎さんに、桜威さんは「これが手紙の中身だ」と告げた。島崎さんは喉の奥で笑っていたが、次第に手で顔を覆い"やっぱりあの人が好きだ"と零す。桜威さんはそんな島崎さんを抱きしめて"ちゃんと伝わってる"って言ってくれる。
外からはゴォオっと音が響き、いよいよ終わりだなと思っていたその時に、突然桜威さんの唇に柔らかいものが触れた。瞳には島崎さんの睫毛が写っている。唇を離すと、島崎さんは桜威さんに「少ないですがお礼です」と微笑んでくれて、桜威さんは「やっと一番の願いが叶った」と満足そうに笑った。
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