また会う日まで
- 遊笑 鉄線
- 2023年1月18日
- 読了時間: 9分
更新日:2023年2月21日
宇宙から飛来する謎のモノたちから地球を守る為に作られた兵器のマイちゃんと、その兵器を大切にしていたパートナー(真一郎くん)が殺害される前にマイちゃんを託された友人の若狭くんの話。ワマ。
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ある雨の日、外出しようとドアを開けると、何かが突っかかる音。
不審に思いながらもそっと力強く押すと、隙間から大きなキャリーケースが見えた。一瞬、人の敷地内に誰かが勝手に捨てていったのかと腹が立ったが、よく見るとそれは学生時代の友人が愛用していたものによく似ていた。キャリーケースには自分を含めた仲の良い友人4人で作ったオリジナルデザインのシールが貼られており、持ち主が確かにその友人であることを証明していた。
だとしてもそれが何故ここに?という疑問は残ったが、雨晒しにするのもと考えてとりあえず玄関に上げチャックを開けてみてみる。
するとそこには、柔らかな金色の髪の少女が詰められ眠っていた。驚き後退る彼がぶつかったドアの音に目を覚ました少女は、ゆっくりと起き上がりキャリーバックから出た。少女はマイと名乗った。マイが言うには、自分は不定期に地球へと飛来してくる敵と戦うために作られた人型の兵器であること、側で世話をしてくれていた真一郎は殺されてしまったこと、自分が生まれた基地も破壊されてしまい帰る場所がないこと、などを告げた。
何故何の関係もない自分が選ばれたのか、何故友人が殺されてしまったのか、それをした人間たちは一体何者なのかを尋ね返したが、マイは一言「ねむい」と呟くと勝手に部屋の中へ上がり込み、あまりにも突然のことで頭の整理ができていない彼を他所にそのままベッドで寝入ってしまった。
苛立っていても仕方がないのでキャリーバッグを片付けようと覗き込むと一通の封筒、中にはSDカードが入っていた。データは2つあり、一つはマイの取扱説明書、もう一つは彼宛の最後メッセージビデオだった。
ビデオには役目を押し付けてしまった謝罪から、なぜ自分が命を狙われているかの理由、決して報道されない裏で目まぐるしく揺れ動く世界情勢、そして自分がどれだけマイを大切にしているかということ、最後に学生時代から世話になった彼に対する感謝の言葉で締めくくられていた。
こんなものを見せられて断れるわけないとため息を吐きながらも、酒も飲まずにソファに腰掛け、ぼんやりと考えに耽る。
何時からかこの世界には謎のモノが宇宙の彼方から現れ、地球を破壊せんと暴れ回るようになった。最初の襲来で地球は深刻的な被害を受け、無くなってしまった国は何カ国もあった。日本は世界的に見れば比較的に被害を受けず、自分も家族も友人たちも無事だった。そんな中、バイク屋で働いていた彼の友人である真一郎が兵器の開発をしていた研究チームに呼ばれた。真一郎はただひたすらに困惑していたが、家の前に黒い車が止まり物々しい雰囲気を醸し出していたのでは断れるはずもない。彼を乗せた黒い車はあっという間に走り去り、その日を最後に姿を見ることはなかった。
メッセージによれば、兵器そのもの自体は完成していたが肝心の“心”が育たず、ただ無気力な人形と化していたらしい。それでランダムで選ばれた国民の何人かが秘密裏に呼ばれ、彼女の心が芽生える実験をしていた。それに選ばれたのが真一郎だった。
3日間彼女と二人きりで過ごし、感情の変化が見られれば成功。今まで何百人と試したが動いた試しはなく、彼も全く期待されてはいなかった。
開始から2日ほどでマイは真一郎に興味を持った。更に3日追加して側に居させると、4日目には言葉を覚え、6日目には笑ったり怒ったりなどの感情を見せるようになった。急激な変化に研究員たちも非常に驚き、それから彼はマイの専属のパートナーとなった。
マイは我儘でお転婆だけど、寂しがりで愛情深い、可愛い妹みたいだ。ビデオの中でそう語る真一郎の朗らかな笑顔を思い出し、若狭は心に暗い影を落とす。それでも彼女は戦うために作られた兵器で、生まれて間もないながらも人類の運命を背負わされた。そしてこの戦いが終わった後、彼女はどんな運命を辿らされるのか。それを全て承知だったはずの彼はどんな気持ちで側にいたのだろう、と。
再び起床したマイは真一郎の言う通り、我儘で遠慮を知らない。しかし人懐っこく、屈託のない笑顔はなんとなく友人の面影を彷彿とさせた。突然始まった天上天下唯我独尊兵器との日常に初めは四苦八苦していた若狭だったが、彼女との生活は彩り豊かで楽しく、いつの間にか案外悪くないと思うようになった。
そんな平和な日々が続いていたが、とある春に何度目かの襲来があった。どうしたらいいのか混乱する彼の肩を両手で掴み「すぐ倒すから、安全なところに隠れてて」と彼女は自信に溢れた輝かしい表情で宣言し、そしてあっという間に倒してすぐに戻ってきた。今まで報道でしか知らなかったが、飛来するモノたちを今まで何度も瞬殺してきたらしい。もっと傷ついたりする姿を想像していたが、そんなことは一度もなかったのだと。
友人が殺されたのも、これが理由だった。
マイは地球を滅茶苦茶にするほどの力を持ったモノでさえ、簡単に殺してしまう。その圧倒的な能力が、様々国を惹きつけた。この戦いが終わり今度は人類同士の戦争が始まった時、覆せないほどの大きなアドバンテージが取れる。逆に、そしてそれを所持している国が脅威となり得ることに恐怖をしていた。つまりは、マイさえ手に入れば世界を牛耳る力を手に入れたと言っても過言ではない。そんなくだらない欲望と妄想が各国を蝕み、やがて争奪戦へと発展した。無論国も尽力したが敵わず、居場所を突き止められ襲撃される中で真一郎は命懸けでマイを連れ出し、バッグを若狭の家の前に置いて自らが囮となった。
メッセージの中で真一郎は国と国の争いが激化していることを嘆き、悔しさを滲ませた声で辛そうに話していた。そしてこの収録が終わった1週間後に、マイの記憶の殆どは削除されるように設定してある、目覚めてから多分1日は動けない、記憶が多すぎて削除に時間がかかるはずだから、と説明された。
だがマイは忘れたくなかったのか、はたまた忘れられなかったからか、真一郎と初めて出会った日と、爆発が起こる中で火傷を負いながらも必死に連れ出してくれた真一郎の姿、そして逃走中に真一郎が少し眠っている隙にマイが追っ手たちを次々に殺戮していく記憶だけが残されていたのを、若狭は説明書を片手にマイのデータを弄くり回している時に偶然知った。
追手が来てもいいはずなのに全くその気配がないのは何故かと不安になった日もあったが、そのデータを見て彼は全て腑に落ちた。が、それでも友人の悲劇的な最期には変わらない。そして自分もまだ命を狙われていることも。
暗い顔をする若狭の頬を両手で包み、マイは笑顔を向ける。幼なげで柔らかな曲線を描く顔は、兵器なのに見た目通り柔らかく、温かい。若狭は彼女の頬に手を添え、もし自分が死んだら悲しむかと問うた。彼女はこの世界の全てを壊すと答えた。ならば何故真一郎の時はそうしなかったのかと尋ねると、真一郎と「みんなを守る」と約束したからと答えた。でも、もしまた大切な人が死んでしまったら、今度こそ自分は機能しなくなる。そうなれば地球が滅ぶのも時間の問題だから、自分が動けるうちに壊すのだと。
マイは愛を求める性質を持っていた。暇さえあれば好きだといい、座れば膝の上に座り、立っていると真前に立って顔を覗き、寝ていればベッドに潜り込んで抱きついてついてきた。表面上は冷たくあしらっていた若狭だが、内心言い表せぬ心地良さのようなものは感じていた。
こんな日常がずっと続けば良いなと願っていた矢先、家の前に黒い車が止まっていた。そこから黒服の男たち出てきて、曰く『飛来するモノが宇宙の何処からやって来るのか判明したから、そこへ彼女を向かわせて破壊してもらう。そうすればもう二度と奴らはこの星へはやってこない』と言った。
半信半疑な話の上に危険だからさせたくないと断固拒否する若狭を制し、「大丈夫だから、すぐ帰ってくるから安全なところに隠れてて」と彼女は何時も通りの台詞を笑いながら言った。そして最後に、帰ってきたら今度こそ「好き」って返して、という言葉を残し、去っていった。冬の気配が近づいてきた、秋の終わりのことだった。
無事を祈りながら不安な毎日を過ごし、それが一月経った頃。毎夜見る“マイが二度と戻ってこない悪夢”から飛び起きると丁度、外がかなり煩いことに気が付いた。汗ばんだ額を拭いつつ窓を開けて覗くと、外には人々が溢れかえっており、どうやら大規模な避難を始めているらしい。
慌ててテレビをつけ、齧り付くように報道を見る。計画は成功し、地球にマイが戻ってくる、が、彼女は苛烈な戦いの末に故障しており動くこともできず、そのまま墜落してくるのでどう対処するか緊急会議をしているのだと。
無我夢中で家を出て、屋根に登る。マイはちゃんと若狭の家に向かって落ちてきているようで、真上にうっすらと流れ星のような眩い光が見えた。出来るはずもないが、彼女を受け止めようと必死に手を伸ばす。受け止められなかったとしても、彼女の衝撃で一緒に死んでしまいたいと願った。
『マイ』と喉がはち切れるほどの大声で叫んだ刹那、彼女が放つ光に向かって何本かの光の筋が走り、一瞬の静寂の後、上空で爆発した。彼女の亡骸は灰となって街に降り注いだ。彼は腕を下ろすことも忘れ呆然と立ち尽くしていたが、手のひらの中に雪のように積もった灰を見てゆっくりと手を下ろすと、その灰に向かって「愛してる」とそっと呟いた。
つけっぱなしのテレビからは、マイを英雄として称える声と、もう脅かされることがない平和を喜ぶ速報が繰り返し流れていた。そんな報道を一瞥することもなく、彼は彼女が充電するタイプの兵器であったことを、手に握った充電コードを見つめながら感謝していた。
数ヶ月後、昔よく連んでいた3人の友人のうちの一人が若狭の家を訪ねた。この家がすでに家主を亡くしていることは知っていたが、寂しさとやりきれなさから訪ねずにはいられなかったからだ。
伽藍堂な部屋を見回すと、ふと家具の隙間に枯れた花束が落ちているのを見つける。花屋で購入したのではなく、野花をリボンで括った簡易的なものだ。リボンの裏側には、拙い文字で「ずっと大好き」と大きく書いてあり、最後に“愛しのマイより”とあった。彼は花瓶を買ってくると、萎びて茶色くなっている花を生け、リボンを周りに結んだ。弔いというわけではなかったが、本来だったらこうなっていたであろうあるべき姿に戻してあげるのがせめてもの自分の慰めになる気がしたからだ。それを部屋の中央に置き、重い腰を上げる。帰り際にふと、玄関に置いてあったオリジナルステッカーが貼ってあるキャリーバッグが目に入った。4人で過ごした懐かしい日々が脳裏に浮かび、締め付けられるような苦しさで思わず涙をこぼす。それを拭うこともしないまま家を後にした。
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