甘い甘い蜜の味
- 遊笑 鉄線
- 2020年2月25日
- 読了時間: 3分
高級品な上に入手が極めて困難な砂糖崎(砂糖でできた手のひらサイズの島崎さん)を将くんに「これは"食べ物"だから、決して愛着は持つな」と一言添えて渡す統一郎の話。(統島)
将くんは統一郎の言いつけを守って瓶に入れて管理していたんだけど、何時も瓶に張り付いてジーっとこちらを見てくる砂糖崎が気になって瓶から出してしまう。暫くボンヤリとしていた砂糖崎だったが、将くんに気がつくと差し出された手に駆け寄り、指にギュっとくっついた。
将くんは砂糖崎のあまりのいじらしさに心を一瞬で鷲掴みされ、それからは統一郎の目を盗んで瓶から出しては砂糖崎と一緒に遊ぶ日々を送っていた。砂糖崎は言葉を話す事はできないが記憶力はあるようで、将くんが来ると良く笑うようになった。
そんなことをしていたら愛着が湧くのも当然で、ある日統一郎が砂糖崎を返すように言ったら凄い勢いで嫌がる将くん。それを意に介さず統一郎は砂糖崎を取り上げると、珈琲の中へ落とし、スプーンを回した。
すぐさま統一郎の腕を掴み止めるが時既に遅く、砂糖崎は跡形もなく消えてしまっていた。将くんはあまりの残酷な出来事に呆然とし、少しすると堰を切ったように泣き始めた。
統一郎は複雑そうな顔でチラリと将くんを一瞥して暫く珈琲の味を楽しんだ後、まだ泣き続けている将くんの頭を掴み、上を向けさせてグイッとコーヒーを流し込んだ。その珈琲は今まで飲んだどの飲料よりも美味しく、まだ苦味を快く感じない将くんですら夢中にさせた。
実は砂糖崎は"愛情を与えて信頼関係を結ぶ"と極上の味になる不思議な調味料だった。しかし、大抵の人は一度覚えた砂糖崎の味に飢えて時期尚早に料理に突っ込んでしまったり、一見すると生物のような存在の砂糖崎に同情して食用になるのを拒否したりと、運用が安定せず非常に難しいのがネックだった。
そんな統一郎も幼い頃は、父親から譲り受けた砂糖崎を心底大切にしていた。そんな彼から父親は同じように砂糖崎を奪い、無惨にも珈琲を作ってみせた。その時は父親を酷く恨みはしたが、その珈琲を飲んだ瞬間、彼の恨みは何処かへ消え失せてしまった。
あれ以来、統一郎は世界中を周り、20年をかけてやっと砂糖崎を探し当てた。掌に乗せた時の愛らしいキョトンとした顔は何年経っても変わらず、統一郎は珍しく口許に笑みを浮かべる。そして砂糖崎に"純真な者のまごころ"を触れさせるため、将くんに白羽の矢を立てた。
砂糖崎を美味しく食べたいという願いが起因になっているのは勿論だけど、統一郎は過去の素晴らしい(と本人は思っている)日々を将くんに体験させたかったし、将くんにもあの極上の味を感じて欲しかったし、何より砂糖崎に幸せになって欲しかったという歪み切った愛情があるのが原因だったりするよ。
また、統一郎が冒頭で「これは"食べ物"だから、決して愛着は持つな」と言っているけど、自分もかつて父親から言われた経験から無駄だとは分かっているし、騙し打ち的な事をせずに予め言っておこうという無駄な誠実さの現れです。だから利用したかといえばそうかもだけど、将くんのことは一応想ってる。
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