檻付病棟
- 遊笑 鉄線
- 2015年3月18日
- 読了時間: 3分
更新日:2022年8月15日
◯×荒も好きですが、個人的に◯×◯←荒が好きなのかもしれません。つまり、心身ともに異常をきたすまで追い詰められて、草臥れたボロ布のような心を抱いて虚無の眠りにつく当て馬荒北くんがとても大好きなのです。
荒北くんの精神には波があって、何時もは部屋の角で怯えた目をしながら膝を抱え小さくなっているのに、トラウマスイッチが入ると慟哭しながらライオンのぬいぐるみをカッターで滅多刺しするとかだったら凄く可愛いです。檻付きの病院で毎日観察していたい。
幼児退行しているのか普段は基本的喋らないものの、時に『福ちゃん』とポツリ呟く時があります。でもその度、福富さんにされた、とても口に出せないような所業や、身を焼かれるほどの辛く苦しい思い出が蘇り、肩を震わせて泣いてしまうのです。この思い出す時間が長くなるとSAN値が減って発狂状態になる。
荒北くん以外の人はきっと幸せになっているんだろうなぁと思いましたが、もしかしたらみんな死んでいるのかもしれません。
精神が本格的に壊れる前に荒北くんが火をつけて炙り殺してしまい、それで断罪する人が誰もいなくなって初めて、悲しみや苦しみや憎しみから解放され、こうなってしまったとか。
自分を追い詰めた人間たちを焼き尽くしているうちに、荒北くんの精神も焼き切れて空っぽになってしまったのですね。そしてたまに彼の瞳に炎が揺らめく時があって、その時は何時も、友達だった人達を放火して燃えて灰になっていったあの光景を思い出しているみたいな。
少年バットのようにすっと出てきてバットで人を滅多打ちにして殺す荒北くんが好きなのですが、バットで致命傷を与えない程度に嬲った後、ペプシのボトルに入っていた液体燃料をぶっかけて無心で火をつける荒北くんも中々だと思いました。
“余所者のくせに”と崖から突き落とした人間を、愛する人を嵐の如く奪い去った人間を、純粋な気持ちを利用し最後は虫を踏み躙るかのように潰した人間を、そして心が壊れていく様子を遠くから眺め笑っていた傍観者達も、荒北くんはこの世界から無くしたかっただけなのです。まさに劫火のようですね。
でも別にはじめから憎んでいたわけではなく、荒北くんにもちゃんと燃えるような愛情を持っていた時がありました。それが精神が擦り切れるような扱いを受ける日々のせいで憎しみの業火に変わってしまい、全て焦がしてしまっただけなのです。
この話の一番救われない所は、荒北くんをこういう風にさせた人達みんなが「彼を追い詰めた」という意識がないことです。つまり、そこに悪意があったわけではなく『結果的にこうなった』だけなので、荒北くんは余計辛いのです。何故なら意識のない加害者ほど、被害者ぶる者はいないですからね。
『罪を憎んで人を憎まず』という諺がありますが、人を精神的肉体的に殺しても、被害者遺族の遣り切れない気持ちなど関係なしに「そこへ至る経緯があったのだから仕方ない」で攻撃対象を形のないものにすり替えられるのなら、加害者にとってこんなに都合のいいことはないですね。
因みに彼も罪人なので、勿論罰を背負うことになりました。今日も荒北くんは、生き死にさえも自分で決められない檻の中で忘れられぬ悪夢を何度も彷徨いながら、命の結び目が自然と解ける時をずっと待ち続けるのです。
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